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"HORN" OFFICIAL INTERVIEW「混沌極まる2020年代を威風堂々と駆け上がる“ネオミクスチャーバンド”、Kroiに刮目せよ」

筆者が彼らの存在を認識したのは、昨年8月。下北沢のライブハウスだった。まず耳と目を惹きつけられたのは、フロントマンの不敵な存在感とスキル。歌唱の旋律とラップのフロウ、日本語と英語のリリックを縫い目なく編みながらダイナミックにオーディエンスに放っていくその様相は、じつに生意気で色っぽかった。あきらかに彼は特別なボーカリストとしての求心力をすでに獲得していた。さらにブラックミュージックのグルーヴを表層的なスタイルではなく血肉するものとして体現しようとするリズム隊と、ブルースを匂いも立ち上がらせるギタリストによる音の交わりが、いびつな迫力をたたえたまま一体となり、縦と横のノリが火花を散らすようにしてフロアを揺らしていた。荒削りであるほどに底知れない可能性が際立っていく。そんなパフォーマンスに魅了された。

彼ら、Kroi(クロイ)の音楽像に記号を付けるのであれば、日本由来のジャンル名である“ミクスチャー”ということになるだろう。しかし、2020年の今現在、多くのリスナーがミクスチャーと聞いたときにイメージするのはロックバンドがファンクやヒップホップに接近しつつも、結果的に横のダイナミズムを担保できないまま縦が強調されている音楽像ではないだろうか。現代ジャズやコンテンポラリーなブラックミュージック、ヒップホップやビートミュージックがナチュラルにクロスオーバーするのが当然になった今、ミクスチャーという概念はますます死語と化しつつある。

しかし、そのうえで内田怜央(Vo.)、長谷部悠生(Gt.)、関将典(Ba)、益田英知(Dr.)、千葉大樹(Key.)の5人から成る Kroiにはさまざまな音楽ジャンルの背景にある文化や法論を濃密に理解し、享受したうえで固有の音楽像を獲得するという本質的な意味でのミクスチャー性を感じる。彼らには“ネオミクスチャーバンド”とでも言うべき説得力と魅力がある。各メンバーが通ってきた音楽的なルーツはSpincoasterのインタビュー(https://spincoaster.com/interview-kroi)に詳しいので、ぜひチェックしていただきたい。ずいぶん前置きが長くなったが、しかし、彼らは結成からまだ2年数ヶ月しか経ってないバンドである。

まず、内田と長谷部は中学からの同級生で、遊びの延長でコピーバンドをしていた。Kroiが生まれる前夜はそこにサンプラーを担当する元メンバーがいた。別の場所で大学の同級生であったが卒業後に連絡を取り合うようになったという関と益田のリズム隊がバンドを組んでいた。2018年2月のある日、Instagramのアカウントをフォローし合っていた長谷部と関が連絡を取り、2組が合流してスタジオに入り、1ヶ月後にライブをすることに。偶然にも、2組の音楽的な趣味趣向は近かった。

関:集まったその日にバンド名を決めようとなって。じつは益田と2人でやっていたときのバンド名案として出ていたのが、Kroiだったんです。

益田:そのときは却下されたんですけど(笑)。

関:ブラックミュージックという方向性に関しては元からあったテーマだったんですけど、バンド名をKroiにしようという段階で「ジャンルを固めたくないよね」という話をしているうちにいろんな色を混ぜると黒になるという、ダブルミーニングのアイデアも出てきたんです。

そこから、サンプラーの元メンバーが脱退。バンドは2019年8月リリースの1st EP「Polyester」の制作時に千葉と出会う。元YouTuberというバックグラウンドも持っている千葉は、Kroiのマネジャーを務めている安藤氏の同居人でもあった。

関:サンプラーだったメンバーが抜けたときにシーケンスを入れた音楽性をやる必要はないと思ったということと、ライブをするからにはメンバー全員の演奏をちゃんと生音で聴かせたいという思いがあったので。そんなときに「Polyester」のレコーディングのタイミングで(千葉と)知り合って。マネジャーのアンディ(安藤)の同居人である彼が鍵盤を弾けるだけではなくアレンジやミックス、グラフィックデザインもできるという話は聞いていたので。それで、同作のミックスを手がけてもらうと同時に鍵盤も入れてもらったんです。そこからライブにも出てもらうようになって。それが去年の9月ごろですね。

千葉:Kroiの過去の音源を聴いたときに音作りやレコーディングに関してもう少しこうしたほうがいいなと思うところがあって。そのときすでに「Fire Brain」(2019年12月リリース)のデモを聴かせてもらっていてすごくカッコいいなと思っていたし、最初は裏方目線的な方向の意欲が湧いたんですよね。

内田:最初は(千葉が)ポップスが好きな人だと思っていたんですけど、じつはフュージョンとかも聴くし、マイケル・ジャクソンとかも大好きで。それもあって一緒にやりたいと思うようになったんです。

千葉:小さいころ親のカーステで聴くのはマイケルだったけど、ポップスも聴くし、日本のアイドルの曲も好きだったりして。でも、自分ではEDMのトラックを作ってたり、昔からKroiっぽいジャンルの曲もすごく聴いていたので、もし自分がメンバーとして加入するならフリーキーなアドリブが乗るようなサウンドをやりたかったというのはあります。正直、王道のポップスをやるバンドだったらメンバーになってなかったと思います。ミックスも僕は技術的にすごく上手いわけではないけど、バンドの色はしっかり出せるので。

それにしてもミックス(場合によってはマスタリングも)やデザインも手がけられるメンバーがいるのはとても強い。このセルフプロデュース能力もまたKroiの大きな武器だ。

内田:千葉さんが入ってからバンドのクリエイティブをメンバーだけで完結できないとダメだと強く思うようになって。これだけいろいろな音楽がすぐに聴けるような時代の中で、ミックスも含めてバンドの色が出るようにしなきゃと思ってます。

関:結成したときから音楽だけをするバンドでは終わらない“Kroiという存在”でありたいと言っていて。それこそ楽器が弾けるメンバーと同列にカメラ担当のメンバーがいるみたいに、1つの「クリエイティブチーム」のようなスタンスでいたいなって。結果的にアンディだったりバーチーが入ってくれたことで、MVのディレクターやカメラマン、いろんなクリエイターがKroiに興味を持って集まってくれている。そのチーム感は今後も大事にしていきたいですね。

内田:Kroiの今の音楽性があるのも、こういうチームになっているのも、すべて偶発的ではあると思うんです。でも、我々はそこにルーツがあるものが面白いと思っているので。自分たちが聴いて影響を受けてアウトプットしたものに誰かが刺激を受けて、そこからその人がいろんなジャンルやカルチャーを遡ってディグる作業みたいなことに醍醐味があると思うんです。

関:ミクスチャー感というところで言うと、怜央から上がってくるデモを聴いて個人的に思うのは、吸収した音楽のエッセンスを中途半端に入れてないんですよね。ロックの要素もファンクの要素もそう。それが本質的なミクスチャー感にたどり着いてる要因なのかもしれない。

現時点ですべての楽曲のデモを生み出す内田が、小学生のころにドラム教室に通っていた経験も、Kroiのグルーヴに大きな影響を与えているのは間違いない。

内田:ドラムの先生が僕をゴスペルドラマーにしたかったらしくて(笑)。パワフルなドラムを叩くガキンチョでした。ファンクやフュージョンなどいろんなドラムを叩かされていたので、その時点でいろんな音楽のグルーヴに触れていましたね。デモもビートから作ることが多くて。

益田:デモの時点でリズム遊びがすごいんですよ。しかもビートの種類が豊富だから、叩いていて飽きなくて面白い。

そして、新曲「HORN」である。アフロビートにも接近するようなパーカッシブなリズムアプローチが抜けのいい歌を疾走させ、Kroi特有のグルーヴの濃度を保ったままポピュラリティを拡張している。そんな印象が強い。テンポは速いが、単に“速い曲”という印象で終わらない。それもこのバンドのグルーヴの強度が為せる技である。



内田:「HORN」はすごいスピード感で完成した曲なんです。デモをみんなで聴きながら次に録る曲を決めるミーティングがあったんですけど、その朝に現状上がってるデモだけでは少ないんじゃないかと思い始めて、ストックしてあったデモを大量に送ったんです。結果的にミーティングで上位に残ったデモのほとんどがその日の朝に送ったもので。「HORN」のデモはその中でもさらに上位に入ったものでした。コロナの自粛期間中に曲を作りたかったのにどうしてもできなくて、ちょっと外に出られるようになったタイミングでやっとできた曲なんです。そのときにいっぱい曲を作ったので、「HORN」もいつできたのか覚えてないんです(笑)。でも、パーカッションを入れたいというイメージは最初からありました。

関:デモが上がってから1ヶ月しないで完成までもっていきましたね。

長谷部:今まで聴いたデモの中でも新しい感じがありました。一聴すると明るい曲調ではあるし、ポジティブな感触があるじゃないですか。それが新鮮でしたね。

関:リズムパターンも今まではファンクな要素が強めだったんですけど、「HORN」は曲として終始スムーズな疾走感があって突き抜けていく感じがありますよね。あと、今回はソロというソロがない。そういう意味でも新鮮さがあると思います。

益田:Kroi史上最速の曲なんですよね。BPM137で、90とか70台の曲もあるから、テンポの速さに慣れるのが最初は大変で。

内田:でも、速く聴こえないというのはすごく大事なポイントだと思っていて。身体を揺らしたときに「あれ、今までと違う」と感じてもらえると思う。

千葉:ドラムのコンプ感とかで速いビートに聴こえたらノリが軽いなと思って。そこはミックスでも意識してるところですね。

この「HORN」然り、内田のリリックには往々にして現代社会に対するシニカルなまなざしがあり、それが受け手の意志によってポジティブにもネガティブにも変容する。

内田:「HORN」も最終的にはネガティブな着地をしているんです。“幻想”をイメージしてリリックを書いたんですけど、「本当につらいことがあったら幻想の中に行っちゃえ」と歌ってる。ハッピーエンドで終わりたくないんですよね。基本的に。自分たちの曲で元気になってもらえるのはすごくうれしいんですけど、深みを持たせたい。聴いた人が「これは明るい曲なの? 暗い曲なの?」って考えてもらうくらいがちょうどいいなって。やっぱり作品だけでは終わらせたくない。それが作詞をするうえでも美学になっていると思います。

Kroiはここから右肩上がりに大きなフィールドへ歩みを進めていくだろう。今、“ネオミクスチャー”を体現する彼らの行方を見逃す手はない。

(インタビュー・テキスト・編集:三宅正一)

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